silent0.97
もう朧げにしか思い出せないのヨ。
貴方が私にかけてくれた言葉もその声すらも
今まで沢山時間の流れに流されて、いつもそれなりに生きてきた。
愉しい事は沢山あったしそれ以上に哀しい事も辛い事もあった。
波があるように。
不幸と幸福が交互に遭わられるようなものだと。
今となってはそんな訳がないのだが、昔は半ば本気でそんなふうに思ってたのだよ。
今は情けなさに溺れているのです。
好きな人の生活の幸せをあれ程までに望んでいたのに、
その幸せの邪魔しているのはいつでも私だと気づいたのです。
好きな人が恋人になり配偶者になった。
その人との間に望んだ子どもが生まれる。
壁も屋根もあって雨風凌ぎ
食べ物にも困らず流行病にもかからない。
まるで絵に描いたような幸福の塊のような生活
いつかの私はこれに憧れて、そしていつのまにか叶ってた。
そして今日私は夫を泣かせた。
綺麗な目から白い肌に透明な液体が垂れていく。
こんな時でさえ、「相変わらず綺麗な顔だな」と思う自分を馬鹿だと思う。
でも、
本当に、
流れる涙が尊くて、
もう少し見たいと思ってしまった。
いつも幸せでいて欲しいのにな。